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東京高等裁判所 昭和34年(く)133号 決定

少年 K(昭一七・一〇・一三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、抗告人提出の抗告申立書(昭和三十四年十一月十六日付)に記載されているとおりであり、要するに、本件審判の際裁判官は、少年が病気全快後は就職先をみつけて出院させてやると説明をしてくれたが、医療少年院に送致されたものは出院までに早くて十ヶ月を要するとの事実を知るに至つたから、本件医療少年院送致の処分は著しく不当であると思うというのである。

よつて、一件記録を調査するに、原決定には、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認等は何ら存在しないばかりでなく、少年は幼少より盗癖があり、金銭持出、家出、放浪等の常習者であり、仕事にもあき易く、再犯の危険性も大であるのみならず、特に膀胱手術後遺症及び夜尿症等の持病があり且少年の保護者には全く保護能力が欠けていることが認められるから、この際少年を適当な医療措置を講じ得る少年院に収容して、健康を回復させ且つその性格矯正をはかることは最も必要であつて、そのため原裁判所が少年を医療少年院に送致すべきものとしたのは全く相当な措置であつて何ら不当の廉は見当らない。

しかるに少年は原決定に著しい不当があるといい、前記のとおりその理由を述べているのであるが、少年院収容の目的である矯正教育の実もあがらないのに単に病気全快したというだけで少年を少年院から退院させてやるなどと裁判官がいう筈もないし、また少年は未だ病気の治療も充分受けておらず、すくなくとも数ヶ月の医療を経なければ病気の前途の見きわめもつかないのに、徒らに右のような口実を設けて原決定の不当を訴えるという如きは、自ら性格矯正の意欲の低調であることを物語るものともいえるから、これらは原決定の正当なことを裏書するものであるといわなければならない。これを要するに、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、少年法第三十三条第一項に則り、これを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 東亮明 判事 井波七郎)

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